『宇治拾遺物語』児のそら寝「もの申しさぶらはむ」の意味と品詞分解!敬意の方向まで徹底解剖
高校古典の教科書や定期テストで必ずと言っていいほど出題される定番教材『宇治拾遺物語』の「児のそら寝」。物語のハイライトとなるのが、夜中にぼた餅を作ろうとする僧たちの企みを聞きつけ、寝たふり(そら寝)を決め込む稚児と、彼を起こそうと声をかける僧のやり取りです。その緊迫した(そして滑稽な)心理戦の中で放たれる決定的な一言が「もの申しさぶらはむ」です。
現代の感覚では「もしもし」程度の呼びかけに過ぎないこのフレーズですが、古典文法の観点からは謙譲語、丁寧語、そして助動詞「む」の識別がぎっしり詰まった文法問題の宝庫となっています。なぜ僧は子どもである児に対してこれほど改まった敬語を使うのか、助動詞「む」の文脈上の意味は何なのか、テストで問われる急所を余すところなく整理していきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:「もの申しさぶらはむ」の現代語訳は「もしもし、申し上げましょう/お話し申し上げたいことがございます」であり、後ろの「驚かせたまへ(お起きください)」へと続く重要な呼びかけです。
- 要点2:品詞分解は「もの申し(名詞またはサ行四段動詞連用形・謙譲語)+さぶらは(ハ行四段動詞未然形・丁寧語)+む(助動詞・意志の終止形)」で構成されています。
- 要点3:敬意の方向は「さぶらふ」が話し手(声をかけた僧)から聞き手(児)への敬意であり、寺院において貴族出身の稚児がいかに特別な待遇を受けていたかを如実に物語っています。
【徹底品詞分解】「もの申しさぶらはむ」の文法構造と各語の役割
定期テストや大学入試の基礎問題で真っ先に問われるのが、このフレーズの正確な品詞分解です。一見すると一つの定型句のように感じられますが、細かくパーツを分解することで文法構造がはっきりと見えてきます。
一般的に高校古典の指導現場や文法解説では、以下の構成として分解されます。
- もの申し(ものまうし):名詞「もの申し」(もしもし、という呼びかけ)、またはサ行四段活用動詞「もの申す」の連用形(謙譲語)。「言葉を申し上げる」というへりくだった意を含みます。
- さぶらは:ハ行四段活用動詞「さぶらふ」の未然形。丁寧語(本動詞または補助動詞)で、「〜でございます」「お仕え申し上げる」という意味を持ちます。
- む:推量・意志の助動詞「む」の終止形。ここでは主語が話し手(僧自身)であるため、「〜しよう」「〜したい」という意志を表します。
これらを直訳すると「何か申し上げましょう」となり、現代の日常会話における改まった「もしもし」「ちょっと申し上げます」に相当する呼びかけ表現となります。
【助動詞「む」の識別】なぜ推量ではなく「意志」と判断できるのか?
古典文法で受験生が最もつまずきやすいのが助動詞「む」の意味の識別です。「む」には主に「推量・意志・勧誘・適当・仮定・婉曲」の6つの意味が存在しますが、文脈と人称ルールを適用することで迷わず特定できます。
助動詞「む」の識別における鉄則は主語の人称に着目することです。文末の「む」は、主語が一人称(私・話し手)であれば「意志」、二人称(あなた・聞き手)であれば「勧誘・適当」、三人称(彼・彼女・第三者)であれば「推量」を取るのが基本法則です。
「もの申しさぶらはむ」において、「(言葉を)申し上げる」動作を行う主体は、声をかけている僧自身(一人称)です。「私があなたに申し上げよう」という発話意図であるため、この「む」は疑いようもなく意志(終止形)となります。「誰かが申し上げるだろう」という推量や、「申し上げなさい」という適当では前後の会話として成立しません。
【敬意の方向を完全整理】身分差が逆転する寺院社会の力学
『児のそら寝』の設問で配点が高くなりやすいのが「敬語の種類」と「敬意の方向(誰から誰に対する敬意か)」を問う問題です。この短いやり取りの中には複数の敬語が密集しています。
まずは「もの申しさぶらはむ」および、直後に続く「驚かせたまへ」の敬語表現を整理した対照表を確認してみましょう。
| 使用されている古語 | 敬語の種類 | 動作の主体(主語) | 敬意の方向(誰から誰へ) | 現代語訳のニュアンス |
|---|---|---|---|---|
| もの申し | 謙譲語(動詞連用形と解する場合) | 僧(話者) | 僧 から 児 へ | 申し上げ |
| さぶらは | 丁寧語(動詞未然形) | 僧(話者) | 僧 から 聞き手(児) へ | 〜ございます |
| 驚かせ(おどろかせ) | 尊敬語(最高敬語の使役・尊敬「す」) | 児(動作主) | 僧 から 児 へ | お目覚めになり |
| たまへ | 尊敬語(補助動詞命令形) | 児(動作主) | 僧 から 児 へ | 〜なさってください |
大人の僧侶が幼い子どもに対して「さぶらふ(丁寧語)」や「せたまふ(二重尊敬)」を用いる点に、現代の読者は違和感を覚えるかもしれません。しかし当時の寺院における「児(ちご)」は、貴族や権力者の子弟が預けられているケースが多く、寺院内では非常に尊ばれる特別な存在でした。大人の僧であっても、身分の高い稚児に対しては最大限の敬意を払って接するのが当時の社会常識だったのです。
【前後のあらすじと現代語訳】「児のそら寝」の心理描写を読む
「もの申しさぶらはむ」が発せられる現場の臨場感を味わうために、前後の文脈と現代語訳を確認しておきましょう。
【原文】
この児、さだめて驚かさむずらむと、待ちゐたるに、僧の、「もの申しさぶらはむ。驚かせたまへ。」と言ふを、うれしとは思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、今一声呼ばれていらへむ、と念じて寝たるほどに、
【現代語訳】
この児は、(僧たちが)きっと自分を起こそうとするだろうと待ち構えていたところ、ある僧が「もしもし、申し上げます。お起きになってください。」と言うのを、嬉しいとは思うけれど、たった一度呼ばれただけで返事をするのも、「待っていたのだろうか」と思われては困ると思い、「もう一声呼ばれてから返事をしよう」と我慢して寝ていたところ、
夜食のぼた餅を食べたい一心で、狸寝入りをしながら待ち受ける児のプライドと打算が見事に描かれています。「一回で返事したら食い意地が張っていると思われるから、もう一回呼ばれてから起きよう」と息を潜める子どもの心理描写は、時代を超えて共感を誘う名場面です。
【「驚かせたまへ」の重要語句】古文頻出単語「おどろく」の盲点
「もの申しさぶらはむ」と必ずセットで出題されるのが、直後に続く「驚かせたまへ(おどろかせたまへ)」です。ここには古文単語の最重要語である「おどろく」が含まれています。
現代語の「驚く」は「びっくりする」という意味ですが、古文における「おどろく」の第一義は「目を覚ます・起きる」、第二義が「(はっと)気付く」です。「びっくりしてください」と訳してしまうと完全な誤訳となるため、テスト対策として絶対に間違えてはならないポイントです。
さらに文法的に分解すると、カ行四段動詞「おどろく」の未然形「おどろか」に、尊敬の助動詞「す」の連用形「せ」、そして尊敬の補助動詞「たまふ」の命令形「たまへ」が接続しています。「せ+たまふ」は二重尊敬(最高敬語)の形を成しており、極めて敬意の高い命令表現(「どうかお起きになってください」)として機能しています。
【謙譲語・丁寧語の見分け方】混同を防ぐ実践的アプローチ
敬語の分類で迷ったときは、「誰を高めているか」という視点を持つと一瞬で見分けがつきます。
丁寧語(「侍り」「さぶらふ」など)は、話の内容に関わらず、発話している相手(聞き手・読者)に対して直接敬意を表し、言葉遣いを上品にする働きをします。訳すときは「〜です」「〜ます」「〜でございます」となります。
一方の謙譲語(「申す」「聞こゆ」「参る」など)は、行為の受け手(客体・目的語)を高めるために、行為者(主体)側の動作をへりくだって表現します。訳すときは「お〜申し上げる」となります。「もの申しさぶらはむ」では、「申し」で行為の受け手である児を高め、さらに「さぶらは」で目の前にいる児に対する言葉遣いを丁寧に整えるという、二重の敬意表現が成立しています。
【もの申しさぶらはむ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:「もの申し」は1語の名詞ですか?それとも動詞の連用形ですか?
A1:学校の教科書や採用している文法書によって解釈が分かれる部分です。感動詞的に用いられる名詞(呼びかけ語)として1語で扱う場合と、「もの(名詞)+申し(サ行四段動詞連用形)」として謙譲語の動詞とみなす場合があります。定期テスト対策としては、担当教員が授業やプリントで解説した品詞分解の基準に合わせるのが最も確実です。
Q2:もし「もの申しさぶらはむ」の「む」を推量と答えたら減点されますか?
A2:減点、もしくは誤答となる可能性が極めて高いです。話し手である僧が自らの意志で児に話しかけようとしている場面であるため、主語は一人称であり、文法的には「意志」と答えるのが正解です。
Q3:この後、児はどうなってしまうのですか?
A3:児が「もう一声呼ばれたら返事をしよう」と我慢しているうちに、僧たちは「寝ているなら起こすのは気の毒だ、寝かせておいて自分たちだけで食べよう」とぼた餅を食べ始めてしまいます。焦った児が最後に起こす滑稽な行動(有名な「えひ」の返事)へと物語は展開していきます。
まとめ:文法構造を把握して古典の心理戦を読み解く
宇治拾遺物語『児のそら寝』の「もの申しさぶらはむ」は、単なる暗記用の古文フレーズではありません。そこには、格式ある寺院で暮らす幼い稚児と、彼を気遣いながらも夜食を楽しもうとする僧たちとの間の絶妙な距離感と身分関係が凝縮されています。
「もの申し(謙譲)+さぶらは(丁寧)+む(意志)」という品詞の骨格を押さえ、聞き手である児に向けられた敬意の方向を正しく把握しておくことで、定期テストの文法問題は確実に得点源へと変えられます。登場人物たちの心理戦を想像しながら、古典の生きた言葉として味わってみてください。 (出典: もの 申し さ ぶら はむ(Yahoo!ニュース))