このミステリーがすごい2019の順位はどう決まった?国内・海外1位と30周年企画を徹底解説
年末のミステリー界における一大イベントとして定着している宝島社のガイドブック『このミステリーがすごい!』。その中でも記念碑的な節目として語り継がれているのが、シリーズ創刊30周年の節目を迎えた『このミステリーがすごい!2019年版』です。国内部門における往年の名匠による復活劇から、海外部門で旋風を巻き起こした歴史的傑作の登場まで、極めて密度の濃い投票結果が記録されました。
現在でも読書家の間で「どの年の上位作から読むべきか」という議論において、必ずと言っていいほど名前が挙がるのがこの2019年版です。本稿では、当時の順位データや得点の内訳を振り返りながら、国内外のトップ争奪戦の舞台裏、さらには30周年を記念して実施された歴代最高峰を決める特別企画の真相まで、その全貌を専門的見地から分かりやすく紐解いていきます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:国内部門は伝説のハードボイルド作家・原尞の『それまでの明日』が堂々の1位を獲得し、2位には深緑野分の『ベルリンは晴れているか』が肉薄した。
- 要点2:海外部門はアンソニー・ホロヴィッツの『カササギ殺人事件』が圧倒的な支持で1位に輝き、ピーター・スワンソンの『そしてミランダを殺す』とのハイレベルな上位争いが話題となった。
- 要点3:創刊30周年記念の特別企画「キング・オブ・キングス」によって、昭和・平成の30年間を代表する歴代王者の頂点が総括された。
【歴史と採点構造】宝島社『このミス』の基本システムとニャームズの役割
『このミステリーがすごい!』は、1988年に宝島社の『別冊宝島』からスタートしたミステリー小説のブック・ランキングガイドです。企画者の茶木則雄氏や創刊編集者の石倉笑氏らが、当時の文芸誌や年末企画に対抗する形で、よりエンターテインメント性に富んだ独自のランキングを目指して立ち上げました。投票者には全国の書店員、書評家、作家、ミステリー愛好サークルなどが名を連ね、多角的な視点からその年のベストを選出する投票形式が採られています。
公平性を期すためのルールとして、かつては宝島社の自社刊行物はランキングの集計対象外とされていましたが(※のちに2021年版から対象に含まれるよう改定)、純粋な作品評価を重視する姿勢は一貫しています。また、2009年版からは黒猫探偵の公式キャラクター「ニャームズ」が登場し、誌面のナビゲーターとして定着しました。投票者各自が持ち点を割り振る「得点内訳」の透明性と、年末恒例の覆面座談会における忌憚のない意見交換が、本誌を国内屈指の信頼度を誇るガイドブックへと押し上げました。
【国内編順位】原尞『それまでの明日』の戴冠と深緑野分『ベルリンは晴れているか』の躍進
2019年版の国内編において最大のトピックとなったのは、私立探偵・沢崎シリーズで知られる原尞氏の『それまでの明日』が国内第1位を射止めたことです。前作から実に14年ぶりとなる長編の刊行は文壇内外で大きな話題を呼び、長年のブランクを感じさせない緻密なプロットとハードボイルドの美学が選考委員から圧倒的な支持を集めました。乾いた文体の中に漂う哀愁と、古典的探偵小説の作法を極限まで磨き上げた完成度が決定打となりました。
これに猛追したのが、第2位に輝いた深緑野分氏の『ベルリンは晴れているか』です。第二次世界大戦直後の荒廃したベルリンを舞台に、緻密な時代考証と重厚な人間ドラマを融合させた本作は、単なる謎解きを超えた国際色豊かな歴史ミステリーとして極めて高い評価を獲得しました。長年ジャンルを牽引してきた大ベテランの円熟味と、新時代を担う気鋭の卓越した筆力が正面からぶつかり合った、象徴的なワンツーフィニッシュであったと評価されています。
【データ検証】『このミステリーがすごい!2019年版』国内外主要ランキング対照表
2019年版を象徴する国内外の主要作品および30周年記念企画の概要は以下の通りです。それぞれがジャンルの異なる魅力を放っており、選考委員の投票が特定の一方向に偏らず、多様なミステリーの潮流を捉えていたことが分かります。
| 部門・項目 | 作品名 | 著者 / 訳者 | 順位・位置づけ | 作品の主な特徴・選考評価 |
|---|---|---|---|---|
| 国内部門 | それまでの明日 | 原尞 | 第1位 | 探偵・沢崎シリーズ14年ぶりの新作。ハードボイルドの神髄を極めた圧倒的筆致。 |
| 国内部門 | ベルリンは晴れているか | 深緑野分 | 第2位 | 敗戦直後のドイツを圧倒的な臨場感で描いた、重厚な歴史サスペンスの傑作。 |
| 海外部門 | カササギ殺人事件 | アンソニー・ホロヴィッツ / 山田順子 訳 | 第1位 | アガサ・クリスティへの敬意に満ちた二重三重の作中作構造。主要ミステリランキング全冠制覇。 |
| 海外部門 | そしてミランダを殺す | ピーター・スワンソン / 務台夏子 訳 | 第2位 | 予測不能な視点変更とノワール的スリルが炸裂する、スタイリッシュな犯罪心理劇。 |
| 30周年特別企画 | キング・オブ・キングス | 昭和63年〜平成29年の歴代1位作品 | 記念企画 | 創刊からの歴代1位作品群の中から、平成最後の年に真の王者を決める特別投票。 |
【海外編比較】『カササギ殺人事件』と『そしてミランダを殺す』が示した新潮流
海外編で圧巻の存在感を示したのが、第1位のアンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』です。作中作として進行する古典的本格ミステリーと、それを読む現実の編集者が巻き込まれる現代の事件が交錯する重層的な構成は、ミステリーファンの知的好奇心を強烈に刺激しました。本作は『このミス』にとどまらず、主要な年末ランキングを総なめにする快挙を成し遂げています。
一方で、第2位となったピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』も、空港のバーでの会話から始まる完全犯罪の企てが二転三転する見事なノワールサスペンスとして熱烈に支持されました。『カササギ殺人事件』が本格パズラーの極致を追求したのに対し、『そしてミランダを殺す』は読者の倫理観を揺さぶる心理サスペンスとしての冴えを見せ、海外編上位の対比はミステリーというジャンルの持つ表現の広さを明確に証明しました。
【30周年記念】歴代王者を決める「キング・オブ・キングス」選出の意義
2019年版の最大の目玉として読者を沸かせたのが、創刊30周年を記念した巻頭特別企画「キング・オブ・キングス」でした。これは、昭和63年(1988年)の創刊から平成29年(2017年)までの歴代1位作品の中から、究極のベストワンを再投票によって決定するという贅沢な試みです。
平成という時代の終焉を間近に控えたタイミングで実施されたこの企画は、過去の国内・海外ベスト10一覧を振り返るだけでなく、30年間で日本のエンターテインメント小説がどのように進化し、海外翻訳作品がどのように受容されてきたかを総括する文化的意義を持ちました。乃木坂46(当時)の高山一実氏が巻頭インタビューに登場するなど、長年の愛好家から若い読者層まで幅広い層に向けたアプローチが取られたことも、本号の大きな特色です。
【読書ガイド】2019年の上位作品はどのような読者におすすめか
2019年版の上位入賞作は、それぞれ作風の個性が明確に分かれています。自身の好みに応じて選ぶことで、ミステリー本来の醍醐味を存分に味わうことができます。
- クラシックな本格パズルや謎解きを愛する人:迷わず『カササギ殺人事件』を推奨します。アガサ・クリスティを彷彿とさせる英国調の様式美と、読者をあっと言わせる周到な伏線回収が見事に両立しています。
- 男たちの哀愁と重厚な人間ドラマを堪能したい人:原尞の『それまでの明日』が最適です。新宿の街並みを舞台にした探偵小説の美学と、無駄を削ぎ落としたハードボイルドの真髄を味わえます。
- 歴史のうねりと濃密なサスペンスを体験したい人:深緑野分の『ベルリンは晴れているか』が最良の選択肢です。徹底したリサーチに裏打ちされたリアリティと、極限状況における人間描写が心を打ちます。
- 疾走感のあるスリラーや心理戦に没入したい人:『そしてミランダを殺す』が向いています。善悪の境界線が曖昧になる背徳感と、一気読みを誘うスピーディな展開が際立っています。
【このミステリーがすごい 2019】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:2019年版の国内1位『それまでの明日』を読む前に過去作を読んでおく必要がありますか?
A1:『それまでの明日』は私立探偵・沢崎シリーズの単独作品として物語が完結しているため、本作から読み始めても十分にプロットと世界観を楽しめます。ただし、シリーズ第1作『そして夜は甦る』など初期作から順に追うことで、沢崎の年齢の重ね方や人間関係の深みをより味わうことができます。
Q2:『カササギ殺人事件』がここまで高い評価を得た理由は何ですか?
A2:作中で描かれる「失われた原稿の謎」という本格推理と、現実の「編集者が追う殺人事件」が美しくリンクする二重構造のプロットが絶賛されたためです。黄金期ミステリーへの深いオマージュを含みつつ、現代的なエンターテインメントとして完成させた手腕が評価を集めました。
Q3:『このミステリーがすごい!』の得点内訳はどのように算出されているのですか?
A3:各投票者(書評家、書店員、作家など)がそれぞれ規定の持ち点(一般的には1位から順に配点)を推薦作品に割り振り、その合計得点によって順位が決定されます。誌面では投票者ごとの個人得点や短評が細かく開示されており、どの作品が特定層に熱狂的に支持されたかまで確認できる仕組みになっています。
まとめ:名作が揃った記念碑的アニバーサリーイヤーの価値
創刊30周年の節目となった『このミステリーがすごい!2019年版』は、原尞氏という巨星の復活、深緑野分氏による本格的な歴史ミステリーの到達、そしてアンソニー・ホロヴィッツが巻き起こした海外本格ミステリーの再ブームと、幾重もの奇跡的な巡り合わせが凝縮された年でした。
単なる一時的な流行にとどまらず、何年経っても色あせない普遍的な傑作が上位を占めている点こそが、2019年版の大きな特徴です。これからミステリーの深遠な世界に足を踏み入れたい読者にとっても、本号で激突した上位作の数々は、決して外すことのできない確固たる道標であり続けています。 (出典: この ミステリー が すごい 2019(Yahoo!ニュース))